ご亭主…申し訳ないが、散髪をお願い出来ぬだろうか…?
見ての通り、たく鉢の身ゆえ、床屋賃など払う事は出来申さぬが…
と、殊勝に床屋の軒先で頭を下げてみせた聖人…その心中には誰しもが知るその衆生救済の風体に、『よもや断りはすまい…。』とのほのかな驕りもあったのかも知れません。
しばしの沈黙の後、意を決した様に床屋のマスターは口を開いたものです。
『う~ん、やっぱりダメ!お客さん、ウチはパンチパーマはお断りなの!もう昭和60年代からやった事ないから忘れちゃったしさ、よそ当たってよ、ねっ、ごくろうさま~』と、
けんもほろろに閉じられた床屋のドアを見つめる聖人…
何の因果で平成にタイムスリップしたかわからぬままに床屋を回れば、どの店でもその頭髪を見るなり…
『パンチは駄目!』『パンチお断り!』パンチ、パンチパンチの嵐に、悟りを得て輪廻転生の輪を断ったはずの自分にもまだカルマが残っていたのかと…
青空を見上げ『神様のバカヤロウ…』と小声でつぶやいた聖人だったとさ。
by正仙劇場
合笑