1月29日付『人生交差点③』の続き…
※社会通念上、不適切な表現や描写がある事お許し頂きたいと思います。
夕方、荒川の堤防沿いを愛犬チビを連れ散歩していると色んな方達とすれ違います。
いつも決まった時間にマラソンしている学生や、ミニダックスを連れて散歩している若い女性、少し太めの柴犬を連れ歩く男性など…
すれ違いざまにどちらからともなく『こんばんは~』と声をかけあいます。
ちょうど対岸にある遊園地沿いの堤防は、春になると桜が咲く花見のスポットでもあります。
その後のUはどうなったのでしょうか…
部屋住みを終えた後は、持ち前の器量と才覚で組の本部長にまでなったUでしたが、若い頃の事でもあり、舎弟や慕う人間も増えてくるにつれ、食べる苦労と言うものもそこにはあったのかも知れません…。
極道の世界でも、若い内よりその人間の持つ資質と言うもの…人脈の形成や資金源に対するセンスとなって、顕著に現れるものでもあり…
商才豊かで金回りの良い人間もいれば、武骨一辺倒で金儲けの下手な人間もいたりで…Uは明らかに後者の部類だった様な気がします。
また、どちらにも該当しない人間もいたりで、こうした人間は覇気を持つ人間に組織内で先を越される事になります。
もっとも…若い内より蓄財出来るほど甘い世界ではないのですが
私自身、成人間もない若い頃の自分を振り返ってみて、その頃の夢は何だったのか…?思い出して見る時、自分の部屋を持つ事、刺青を仕上げる事、車を持つ事、道具(拳銃)を持つ事、ただそれだけだった様な気がします。
無頼の世界に生きた若き日の儚い夢でもあります。
もとより商売下手なUでしたが、舎弟や慕う人間が増えて来るにつれて、そうも言ってられなくなったのでした。
((-.-;))
そんな中で、仕事やトラブルの解決を巡り、『掛け合い』と呼ばれる他の組織の人間との切迫した交渉にさえも活路を見出だそうとするUだったのです。
アメリカの犯罪組織マフィアの世界では、この『掛け合い』を指して『シット ダウン!』と隠語で呼ぶそうですが…文字通り『座って話しをしようじゃねえか!』と、その意味するところは国は違えど同じであります。
ある時…Uの舎弟分のさらに下にいた若い子が、他の組織の人間からヤキが入り痛めつけられたとUに連絡が入りました…トラブルの渦中にも、金に成るのか?成らぬのか?瞬時に嗅ぎ取るのも極道であります。
(((;゚д゚)))
本当は相手に痛めつけられた若い子の顔をUは知りません…が、こうした場合、極道にとって、そんな事は目クソが鼻クソを笑う道理であり、自分の傘の下にいた子が痛めつけられたと言う…ただその事実さえあれば何ら躊躇する事なく…
相手組織にそのケジメの話しを向けて行くのもヤクザの習いでもあります。
相手組織に若い子を痛めつけた当人がいるのか?在籍確認を取った後で、Uは間髪入れずに今度は、相手組織の組長に連絡を取る為、再度相手の組事務所に電話を入れます。
しかし相手側もすぐに組長を電話口に出させるほど間が抜けているはずもなく、向こうは向こうで当時者からも事情を事細かに聞いた上で…
後々、話しがこじれ、組織間で理非を問う揚げ足の取り合いの話しになった時に、こちらに落ち度がない話しに『仕立てる事』が出来るのか?万全の構えを敷いた上でUに連絡を入れてくるに違いないのです。
しばらくして相手組織の組長よりUの携帯に連絡が入り、事の顛末を話すUの電話の向こうで『アンタのところの若い衆の行儀が悪いからウチの人間もヤキを入れたんじゃねえのか?納得いかんのだったらいつでも話しをするぜ!』と否を認めるどころか挑戦的な口調に…
((`Д´))
『わかりました…それじゃお宅の事務所に 伺いますが、それでよろしいですね組長!』と、この時は淡々と話し合う日時を決めて電話を切ったUでした。
賽を投げた以上、びっこを引く事は出来ません…『びっこを引く』とは弱気になり後ずさる様子を指す隠語でもあります。
当日、単身相手組織の事務所に乗り込んだUでした…まだ20代前半のUに対し、相手組織の組長は40代半ばの貫禄充分の恰幅の良さです。
相手組織の事務所には20名以上の若い衆達が詰めており、満座敵意の中での話しとなったのでした…
((゚Д゚ll))
この時…Uの腹にはズシリと冷たく黒く光るものがしまわれていたのかもしれません…
話し合いの席に道具を持ち望む事は、本来御法度な事…めくれてしまえば(発覚する事)その場で殺されても文句を言えぬケジメを喰う事になります。
それは脅しの為の道具ではなく、見せる時は最後…話しが決裂し、音の出る時でもあります。
初めはUが歳の若い事もあり、嵩にかけてものを言う相手組織の組長でしたが、周りに居る威圧をかける様にUを睨みつける若い衆などには動揺する様子を微塵も見せぬUの姿に…
対目に座り、目を見て話す内に、若いながらも一筋縄では行かないUの性根を感じとったのか…周りにいる組員達に『お前達、隣の部屋へ行っとけ!』と人払いした上で…
Uの提示する見舞金の全額を相手の組長が支払う事で決着を見たのでした。
ただ、この時も話しの最後に『余談として聞いてよ本部長…おたくとの交渉が決裂しなくて良かったよ、もし駄目ならと思い、昨日の内に若い衆達にも、山で射撃の練習をさせていたんだよ…ワッハッハハ!』と、精一杯の虚勢を張る相手組織の組長…そこには貫目も下の若輩者の言うがままに、金を払わなければならぬ事へのバツの悪さもあったのかもしれませんが…
この掛け合いと言うもの…お互いの利害の妥協点を見出だせる仕事上の簡単なものから、のっぴきならぬ組織間の面子を賭けた攻防まで、ピンからキリでもあります。
話しの決着に金があるのか?それとも交渉決裂で喧嘩し鉛(銃弾)に換えるのか?金と鉛と言うオチが常に付き纏う事を覚悟のサバイバルな一面を持つ当時の極道の掛け合いでもあり…
普段どんなに金銭にルーズで仲間内で不評を買っている様な人間でも、他の組織とのトラブル時など、折衝や掛け合いに見事な根性を見せる人間もいたりで…そこには、組織の大小や政治力も話しの流れに大きく影響するのですが…
その刹那での物言いや性根で人間を量られる極道の世界では、時には背水の陣に立たされる組織間での『掛け合い』ほど、その人間の器量や人間性が現れるものは無い様に当時の私は思ったものでした。
私は中学生の頃など、柔道をしていましたが、お互いに襟を取り合った瞬間に手強いかどうか分かったりするもので…裏社会の話しとは次元の違う事かも知れませんが(笑)
同様に掛け合いと言うものも、相手の目を見て座り、二言三言交わす内に、性根の入ったヤクザなのか?それとも肩書きばかりが一人前の見せかけの商売人なのか?言わずもがなで分かってしまう時があったものでした。
そんなUとある時、夜通しハシゴで飲み歩いた時がありました…そんな時にUがカラオケで歌ったのが、この記事のタイトルの『酔歌』だったのです。
この世に生まれて母親の顔を知らずに育ったUが『ヤーレンソーランヨー』と歌う酔歌には、瞼の裏にだけ生き続ける母親への思慕の念が感じられる様で、哀感に満ちている様に私には感じられたものです。
時代は昭和から平成へ入り間もない頃…クラブのピアノが長渕剛の『とんぼ』を奏でているそんな時代でした。
夜通し飲んで表に出れば、白々と夜が明け、ネオン輝く夜とはうって変わり、通りの脇に積まれたゴミ袋をカラスが啄む姿ばかりが目立つ繁華街の通りを歩いていると、祭りの後の寂しさを感じるばかり…
そんな時にUが『雪の降る夜桜の下で酒が飲んで見たいです…』とポツリと言ったものです
その時は、歳も若いくせにやけに古風でオセンチな事を言いやがると、半ば可笑しくなったのですが…心の何処かで彼の求めているものが分かった様な気がしたものでした…。
本当は純粋でピュアなものを持っている人間ほど、時に反対の極に自らを投げ込んで行くのかも知れません…
それから数日後、再びUと顔を合わせる時がありましたが、この時私は不思議な感覚に囚われたのです…Uの顔が身体から際立って浮き出てる様に見えたのです。
それは死相とでも言うべきものに見え…
一瞬心に不吉な予感が走りました…私は子供の頃から、近所の大人を何気に見ている時など、影の薄いものが見え『このおじさん死ぬのでは…?』などと直感に訴えて来る時があり、そんな時数日後に、その家の前に、葬儀の花輪が立っている事も度々あったものです。
(((;゚д゚)))
まさにその時と同様の感覚と共に、言い様のない、後ろ髪が引かれる様な感覚に襲われたものの…気のせいだろうと思い直し、事実、時間と共にその感覚も薄らいだのでした。
今日を境にしばらくは会えないお互いでもあり、地方都市に帰って行くUに、何か心残りなものを感じた私は『兄弟!持って行きなよ!』と買ったばかりのデュポンのライターを渡したのでした。
デュポン独特の『ピンッ!』と音の出るライターで、早速たばこに火を点け『ありがとうございます!』と喜んでいたUでしたが…
これが、生前のUの姿を見た最後となったのです。
【つづく】