春夏秋冬そして春

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住職の目を盗み、川に小さな生き物に石を巻き付けては放し、溺れるさまを楽しげに見つめる少年にとって、仏教の不殺生の教えなど何処吹く風…

でも、そんな子供をいつもそっと見守る住職の姿がありました。

まだ生命の尊厳などわからない子供にありがちな好奇心とも言えます。

でも、このお寺の住職は、この子供が寝ている間に、縄でこの子供の身体に石を縛り付けてしまいます。

自分がした事の愚かさを、自らの身体で理解させ様としたに違いありません。

時は流れ、子供も思春期を迎えた頃、このお寺に預けられた心を患う同じ年頃の少女が好きになり、性的好奇心も手伝ってか、住職の目を盗んでは表で愛し合う様になる二人でしたが…
ある日、この少女は心身共に健康になった事から親元に返されてしまうのでした。

来る日も来る日も、少女と会いたさに悶々と過ごす少年僧侶は、夜更けと共に、本尊である仏像を風呂敷に包み、背負って寺から逃げ出してしまいます。

この時、少年が忍び足で逃げ出す事を知っていた住職の心中と言うもの…
寺で生きるばかりが人生でなし、あの子が幸せに生きて行ってくれればそれで良いと、祝福し送り出す様な心持ちだったに違いないのです。

それから月日は流れ、逐電した少年は、寺を逃げてまで追った女性を愛憎の果てに殺し、指名手配となってしまいます。
そんな失意と流浪の果てに、このお寺に舞い戻ってきた青年…逃げる時に持ち去ったお寺の本尊だった小さな仏像を持って現れたのでした。

人を殺した余韻そのままに、恩ある住職にさえ毒づくこの若者…
『悪いのはあの女だ!』『裏切ったのはあの女だ!』と自分が命さえ奪った女性さえも罵ります。

そんなこの若者を、すでに老齢の住職は渾身の力で縛り上げ打ち据えるのでした。やがて青年が指名手配になっている事から、刑事がお寺にやってきました。

恐れでナイフを持ち身構える青年…刑事にも『気持ちを落ち着かせたいから…』と少しの時間逮捕を猶予してくれる様頼む住職でしたが、この青年に住職は、お寺の境内の床に、般若心経を彫る様に命じるのでした。

若者はそれこそ、女性の命を奪ったその刃物で、木の床に経文を彫り始めて行きます。

初めはふて腐れた様な態度で荒々しく刃物を叩きつける様に経文を彫り出したこの若者も、深夜になり、夜が白々と明ける頃には神妙な面持ちになって行くのでした。

若者が彫って行くお経の文字に色を塗って行く、住職と刑事たち…

夜が明け、般若心経を床に彫り終え、刑事に連れて行かれるこの若者、このお寺は湖の真ん中にある事から、小舟に刑事と共に乗せられた若者でしたが、長期の服役となる事が避けられぬこの青年に、今生での別れを惜しむかの様におだやかに手を振る住職の姿…そんな惜別の念が、刑事が櫓を漕ぐ舟の動きをいっとき止めてしまうのでした。

それから間もなく年老いた住職は、湖の真ん中で小舟の上に護摩木の様に組んだ木の上で禅を組み、自ら火を放ち、焼身自殺してしまいます。

長い獄中での生活を終え帰ってきたこの男が、長い間無人だったお堂に入ると、教典の上に一匹の蛇がとぐろを巻いていたものです。
まるでそれは『お前の帰りを待っていたよ…。』と語る亡き住職の変化した姿の様でもありました。

大きく悟り、何もかも削ぎ落としてきたかの様な真の僧侶となった男の姿、湖から住職の遺骨を拾い、凍り付く様な厳寒の最中、供養の為に氷で仏舎利塔を彫りあげます。

『春夏秋冬そして春』と言うこの映画、韓国の鬼才と呼ばれるキム・ギドク監督が制作した映画ですが、物語りの舞台となった韓国の山間の美しい湖に浮かぶ小さな禅寺が美しく幻想的でさえもあります。

子供の頃から成長していく一人の人間の姿を通して、傲慢でひとりよがりで、人の欠点をあげつらい、人を呪う事ばかりに一人前なその姿…実は誰しにもありがちなその姿と言うもの、私はこの映画を見ていて、自分にあった弱さをこの僧侶の姿に重ねて見るかの様でもありました。

『三つ子の魂百まで』とはよく言われる言葉でもありますが、子供だったこの僧侶が後に犯す事件に繋がる性癖を幼い内より見てとった、この住職の愛情や厳しさが、言葉少ない中にも全編に感じられる素晴らしい映画です。

韓国の般若心経は日本のそれとは違い、とてもリズミカルなものがあったりもします。
殆どが禅宗の韓国のお寺事情ですが、以前など、韓国を訪れ、地方のお寺などに行くと、この写真の様なチビッコ僧侶に出くわしたものでした。

ポク、ポク、ポク♪と木魚の音と共に山間にこだまする様に読経が響いて聞こえた韓国のお寺を懐かしく思い出させるそんな映画でもあります。

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合掌

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