得度の光りと影…男たちの挽歌⑥

密教僧侶ヒーラー正仙「法名」-P1010541.jpg

※四国松山での講話会にて

刑務所の朝は早いものです。

一般工場の懲役(受刑者)が寝静まる中、朝4時過ぎには炊場(刑務所の受刑者の食事をつくる所)で働く懲役達が舎房より出役して行く音が廊下に響き渡ります。

寝ぼけまなこでどれだけその音を聞いた事でしょうか…

どれだけ楽しい夢を見ていても…ふと目を開け天井を見上げれば、そこはまぎれもなく刑務所の天井…

極道の生き方が刑務所の塀の上で踊りを踊る様だとはよく言ったものです…私が入所した刑務所は終戦直後に建造された刑務所であり、昔の監獄の名残りを至るところに感じさせる刑務所でもありました…。

まだ夜明け前の薄暗いひらめき電球豆電灯でセピア色に染まる天井を見つめていると…

「どれだけ多くの人間の希望や絶望がこの天井に染み込んでいるのだろう…?」と他の懲役の寝息を聞きながら一人感慨にふける時があったものです…。

起床を告げる音楽がラジオのスピーカーから鳴り音符刑務所の一日が始まります…。

起床から「てんけん~点検」の宿直刑務官による点呼を終え、洗面朝食を済まし工場に向け出房して行くのです。

刑務所の敷地内に各工場に向かう懲役の行進を指揮する刑務官の号令が怒号の様に響き渡ります…。

「ひだり~(左)!ひだり~!ひだり~!みぎっ(右)!」と言う掛け声も「だり~だり~だり~みぎっ!」と聞こえてきます…。
(゜д゜三°Д°)

長い刑期を務める長期受刑者になると…どこへ移動するにも手をあげ足をあげ行進する習慣がしっかり身に染みてしまい…

社会復帰後も、万事が行進スタイルになってしまい、なかなか普通に歩く事が困難になる人もいる様です…笑
(´゚艸゚)∵

工場に着くと通称「カンカン踊り」と呼ばれる身体検査が待っています…。

これは作業着に着替える前に全裸で刑務官の目の前で、刑務所での自分の名前ともバーコードとも言える受刑者番号を唱え、両手を挙げ、片足を交互に上げる様がまるで踊りを踊っている様でもある事からついた名に違いありませんが…

年季の入った極道などはサラリと済ませて工場に入って行くのですが…

泥棒で何回も刑務所に来ている様な懲役の中にはこうした時に面白い自己主張する人間もいるもので…笑

例えば受刑者番号が「368番」であれば「さんびゃくろくじゅう~はちば~~ん音符」と、中にはまるで歌舞伎役者の様に表情まで変えて独特の抑揚をつけて発声する人間もいるのです。
ε=(>ε<*)プッ

それはまるで抑圧された懲役の生活に微かな抵抗を示すかの様でもあります。

これは舎房での朝夕の点呼時も同じであり、しかしこれも行き過ぎると刑務官に「むかっコラ~ッ!貴様!なんだその言い方は~っ!むかっ」と怒鳴られ、刑務官のヤマが悪ければ(機嫌が悪い事)警備隊に連行され懲罰房に叩き込まれてしまうのです…。
(=_=;)(^皿^)

刑務所の工場では出役時と作業終了後に工具の点検、員数合わせを徹底して行います。
レンチ目

懲役(受刑者)同士の喧嘩や脱走などに使用される事を未然に防ぐ意味もあるのでしょうが、安全呼称と共に行われるその風景は…

少年院から少年刑務所と見慣れて来た風景でもあります…。

「作業はじめ~っ!!」印刷工場の中央にある担当台より工場担当の刑務官が号令をかけ作業が始まります…。

そんなある時…私の隣で作業をしていた若い懲役が「親方、バツアケが来たみたいですよあせる」と私に声をかけて来ました…。

バツアケと言うのは→「罰明け」読んで字の如く他の工場で懲罰を受けた人間が元にいた工場に戻る事が出来ずに他の工場に配役されてくる事を指して言うのですが…

担当台を見ると、工場担当の刑務官より訓示を受けているその後ろ姿…それはまぎれもなく拘置所より刑務所の新入工場まで一緒だったTだったのです…。

やはり縁のある男だったのでしょうか…?

私は嬉しくなったものです…。
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!

Tも自分の持ち場である職席についてより私の存在に気づいたのか…ニッコリと私に会釈してきました…。

運動の時間に私達は再会を喜びあったのでした…。

背格好から顔の感じも私とよく似ているTでしたが、年齢で言えば私より10歳以上年長の人間でもありました…。

その経歴も異色であり、16才より自衛隊に三年間入隊した後に極道の世界に身を投じ生きて来た男でしたが…

純粋すぎる一面も災いしてか?新しい組織の潮流に馴染む事が出来ず反目する様に組織を飛び出してしまった男だったのです…。

極道の履歴とも言える彼の服役は数回にも及び、その服役年数も15年以上、自衛隊の入隊期間も合わせると成人後まともに娑婆にいたのは僅か数年と言う裏社会の猛者でもありました…。

その犯罪歴も恐喝や傷害、覚せい剤事犯と殺人以外は何でもござれの犯罪歴に彩られた人生だったのです…。

私も当時は極道渡世に生きる人間…私はTと初めて言葉を交わした時よりこの男の持つ愚直なまでの純粋さを感じ好きになっていたのでした…。

獄中での人の縁と言うもの…なかなか娑婆で実る事のないものです…。

この時の服役でも「若い衆にしてください」と私に言い寄ってくる人間も何人かおり、刑務所の中でもそうした人間の前に立ち、他の懲役とのトラブルから守り、出所後も金銭の差し入れをした様な時もありましたが…

その当人達が出所後は無しの粒手で音信不通となるパターンがその殆どだったのです…。

中には刑務所の中で他の組織の人間の舎弟になっている事をひた隠し、娑婆で正式に私の若い衆(子分)に成りたいと言っていた事もあり、出所時に私の組の人間を迎えに行かせると…

私に隠して縁を持っていた兄貴分の組織の人間もそこに迎えに来ており、当日出所するのはその当人一人と情報を得てこちらはわかっているので…

こうなると刑務所の門前で睨み合いです…笑

出所を目前にして寒かったのは(怖かったの別称)誰よりも中にいた当人に違いありません…。

危険を察知したその人間は刑務所の護衛付きで時間をズラして裏の門より他の刑務所に移送されそこから出所したとの事でした…。

当然その後、私にその人間から連絡が入るはずもありませんが…

それから数年後…盗品まがいのクレジットカードを売買した件でファミレスで極道に追い込まれた彼は逃げる様に道路に飛び出したところを車に跳ねられ即死したとか…

風の噂で耳に入ってきたものでした…。

また刑務所では「懲役ヤクザ」と言う蔑称があるのですが…極道と言うのは刑務所の中ではA級市民の扱いを受けるだけに、ヤクザでもない人間が「俺は〇〇組の幹部だ!」「俺は娑婆じゃ新車のベンツを乗っている!」などと、かたる(この場合は嘘を言う意味)事を指すのですが…
(( ゜Д゜))

こうした手合いの嘘は日が経つに連れてメッキが剥がれ、同じ懲役にその嘘を嗅ぎ取られてしまい…

調書を巻かれ(嘘を白状させられる意味の隠語)酷い場合だと工場でも舎房でもコケにされ生活が出来なくなり、最後には工場からも叩き出されてしまいます…。
☆(;ξ(○=(`з´)o

人に侮れたくないと思う自らの恐れから発する悲しい人間の弱さ故に起きる事なのかも知れませんが…。

こうした娑婆でのお互いの姿が見えぬ刑務所で持つ人の縁がもたらす虚しい軌跡と言うものを知っているTは、その時の意気に乗じて刑務所の中で「水盃」で交わされる親子や兄弟分の縁を嫌う人間でもありました…。

ある日の事…運動の時間、ベンチに座り同じ工場の人間達が興じるソフトボールを見ているとテルが隣に座ってきました…。

彼も私と同じ様にソフトボールに嬌声をあげる懲役に視線を向けながらもポツリと私に語りかけてきました…。

「自分を今日から舎弟にしてもらえませんか…?」と…

私の心の扉をノックするかの様な彼の声音でもありました…。

つづく
 

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