得度の光りと影…男たちの挽歌③

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※得度式にて…

私が真言宗のお寺で得度し、加行(けぎょう)と呼ばれる約半年間の修行に入って間もない頃…

ひとりの男が刑務所の中で獄死しました。
それは私がTと呼んでいた弟分でした。

彼は私が最後の服役となった時に、拘置所から刑務所まで一緒だった男です。

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私より10歳以上年上だった彼との出会いは拘置所の中の運動場でした。

私は当時、極道の組長をしていると言う事で、他の未決囚(裁判待ちで拘置所にいる人間)にも影響が出ると言う理由で雑居房に入る事を許されず…独房での日々が続いていたのです。

そんな日常で唯一の楽しみは外気に触れる事の出来る運動の時間だったのです。

ある日、金網のネットで間仕切りされた運動場で私が体操をしていると,反対側の柵の中で運動しているひとりの男の姿が目に入りました。

その男は眼光鋭く、その風体はどこから見ても極道以外の何者でもありません。まるで挑戦的とも思える視線を私に送ってくるその男を見た時…

「なんだこの野郎むかっガンヅケしやがってどこのもんじゃい!」などと思ったものです。笑

後日談ですが、彼は彼で、この時私の評判を聞いており、「眼力の強い迫力のある人だなぁ…あせる」と思っていたそうですが(笑)

これが私とTの出会いでした。

彼も極道人生を長い間歩んで来た男で、私と出会った時はその真っ直ぐ過ぎるイケイケの姿勢が災いしてか、組織から破門になっていた男でした。

私より十歳以上年上の彼でしたが、見た目は三十代にしか見えないそんな男でありながら…彼はその人生の大半を刑務所で過ごした男であります。

16歳より自衛隊に入隊し三年後に除隊した彼は、ドロップアウトし極道の世界に身を投じて行きます。

その後は傷害や恐喝、覚せい剤と…まるで刑務所の塀の上で踊りを踊るが如く、娑婆と刑務所の往来を繰り返しており…
私と出会った時にはすでに通算で15年近くの服役歴があったのです。

ここに自衛隊の三年間を加えると彼の生涯は娑婆と縁の薄いものと言わざるを得ません。

彼とはその後、拘置所から刑務所に移送される時も一緒でした。

まだ根雪の溶けぬ北海道に着いた時私の心も真っ白でした。

その頃、私の組の人間達はその殆どが一網打尽に逮捕され、潰滅状態でした。
それに加えて対警察など緊張を強いられる生活や家庭を省みない私に疲れ果てたのか…当時の妻との間にも冷えたものを感じ、充分に別れを予感させるものがあったのです。(出所後離婚)

拘置所の独房にて「神との対話」との出会いを果たした私…それは初めて「神」と言う扉にノックした瞬間でもありました。

でも、そうした霊的真実をもっと深く知りたい自分を認めつつも…かたやでは、まだ極道の世界で生きたい自分が強かったのです。

身体いっぱいに刺青を入れ、小指も無く、学歴の無い私にとって極道社会だけが自分を容認してくれ、自分の背中を押し勇気を与えてくれる世界だと…その頃の私は思っていたのです。

まだまだその頃の私はヤクザ世界の信念に頭の先からつま先まで浸っていたに違いありません。

しかしそうした長い間いた極道の世界に無常なものを私は感じ始めていたのです。

こうした人生の蹉跌の時期に私とTは出会ったのでした。

【続く】

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